2つ目の「ありがとう」

2つ目の「ありがとう」

そのおばあちゃんがいつからそこにいたのか、
わからない。
わたしがエレベーターに乗り込むと、
そのおばあちゃんも、後から入ってきた。

わたしが目的の階のボタンを押すと、
そのおばあちゃんは小さな声で、
「1」と言った。

おばあちゃんのすぐ横に、行き先ボタンがあったけど、
わたしは黙って1階を押した。
おばあちゃんは抑揚のない小さな声で
「ありがとう」と言った。

わたしの降りる階についたとき、
おばあちゃんはまた小さな声で
「ありがとう」と言った。

何故か、その声がわたしの胸に刺さった。

最初のありがとうはボタンを押したことだろう。
でも、2つ目のありがとうはどうしてこんなに響いたのだろう。
おばあちゃんは、もしかしたら、
一人でエレベーターに乗るのが怖かったのかもしれない。
誰かが来たら一緒に乗ろうと思ったのかもしれない。
休日でほとんど人気のないビルで、
ずっと誰かを待っていたのかもしれない。

どちらも「ありがとう」と書いてしまえば、
たったの5文字。
違いはわからない。

でも、これを文章にしたら、

「エレベーターって慣れていなくて、
おかげさまで助かりました。」

こういう書き方になる。

伝わる、語るとはこういうことである。